歩くひと_ヒロクレ日記

旅した土地の思いで 子どもと暮らす 日々雑記

アイロン台のこと

 アイロン台が壊れた。

 十数年前に家を出た時から使っているもので、耐熱布が破れてきたものを、子どもがビリビリと裂いてしまったのだ。

 中の芯地や綿が剥き出しになり、ビロビロと破れた耐熱布が引っ掛かり、たわんで皺をつくり、どうにも衣服がピシリと決まらない。

 いっそ処分してしまおう、と思い始めた頃、アイロン台が突然、“寒い寒い、こんな日は窓の側に立てかけないで”と口を聞いた。

“どうして”と聞くと、“露がついて反っくりかえる”という。ふうんと思いつつ戸に立てかけると静かになった。

 翌日は、アイロンの手順が悪いやら、糊付けが何とか言う。

 翌々日は、洗濯してすぐにアイロンを掛けろだの、襟元の汗滲みは古歯ブラシでおとせ、窓の結露は日に何回拭け、洗濯物は午後4時までにしまえだの。

十日も経つと、三度三度の食事やら、掃除やら、財布の中身にまで口を出すようになり、五月蠅くってしょうがない。

 かといって、“捨ててしまえ!”と紐で括ると、玄関先でオイオイ泣くのでどうにも捨てられない。

“そうそう毎日お小言じゃ、あんたと顔を合わせる度にムシャクシャするわ”と言うと、“いったん開いてしまった口は閉じれない”と返す。

 それならば、とアイロン台丸ごと木綿の袋ですっぽり被ったら、爾来、ウンともスンとも言わなくなった。

 そんな訳で、未だに家にいる。