歩くひと_ヒロクレ日記

旅した土地の思いで 子どもと暮らす 日々雑記

美しい夏 キリシマ

黒木和雄監督“美しい夏 キリシマ”を見る。本作は、黒木氏の被災体験がベースになっており、戦争三部作の一つ。主人公の少年、日高康夫(空襲により親友を目の前で亡くし、祖父宅に身を寄せうつうつと日々を過ごしている)を軸に、広島への原爆投下後から敗戦までの十日あまりの市井の人々の姿を、霧島の美しい風景の中に描いたもの。 正直、見終わった直後は色々と詰め込みすぎていて、まとまらない印象を持ったのだが、数時間経ってジワジワと染み込むように響いてきた作品。 祖父の前に縮こまり鬱々としていた少年が、やがて祖父に逆らい打ちのめすに至る数日間の成長の過程が次第に悪化していく戦況と対比して描かれる傍ら、村の駐屯兵と農婦の狂気じみた情交、特攻隊員とその恋人との別れ、足を負傷した帰還兵の結婚、戦争で家族を失い心を閉ざす少女、“お国のため”と言いつつも混迷を深める大人たちの姿等々が、霧島の美しく神秘的な風景のもとに点々と描かれ、その全てが(登場人物の誰もが死なず、戦闘シーンもないのに)戦争の凄惨さに帰結していく。 訴えるものは深い。